ハチクロ9巻
ネタバレ満載ですのでご注意。
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物語は一度「沸騰」しないと収束できない、なんてことはないのに。
こんな痛い方向に進まなくてもいいのに。
と、最初は思った。
でも、
一番痛いのはやっぱりその世界を構築した作者自身だろうし、
やさしくやわらかい空気のまま、竹本とはぐの「卒業」をもってキレイに物語を畳むこともできたし、きっとそれで評価は揺らがなかったろうに、
それでもここでもうひとつ上のクライマックス(かどうかはまだわからないけど)をここで持ってきたその姿勢は、
とても、真摯だと思った。
巻末で、自身について述べていることば。
「『乗り越える』ときにしかできない成長」
それを描きたいんだろうな、と。
***
「もしも私が描くことを手放す日が来たら」
「その場でこの命をお返しします。」
生きるから描く、のではなく、描くから生きられる。
そういうものを奪われた(奪われそうな)相手に、本当に森田のことばが届くんだろうか。
本当に、つくることを止められるのだろうか。
わからない。
***
どちらかというと感じるのは、
はぐに見えているものは、もうどうしようもなくはぐの世界で、
腕や指や筆や彫刻刀は、
「つかまえて格闘し、味をたしかめて飲み下し、名前をつけて、あるべき場所へ還していく」
そのためのツールでしかないはず。
だから、例えば右手がもうダメだったとしても、
「まだ左手がある」
はぐは自然とそういう答えを出すような気がする。
それでは届かない、という絶望がすでに見えているとしても、
そうするしかないこともまた、はぐにはわかっているのだから。
***
そして竹本の採る選択。
繰り返される竹本くんのモノローグは、
「終わった話」としての側面を強調するが、
彼は、どの位置からその物語を綴っているのだろうか。
…根拠はないけど、彼はやはり「巣立つ」べきな気がする。
自分が語り部なら、そうさせると思う。
自分にもっとも近い投影の対象としても、
彼の動向と選択に注目します。
終わりの始まりの鐘の残響は、まだ止まない。
- 作者: 羽海野チカ
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